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労務管理情報(6)


猪(い)〜年(とし)社労士@小野寺(おやじ)の労務管理情報
第6回 働き方改革で注目を集める時差出勤制の実務対応


「時差出勤」とは何か  

働き方改革と「時差出勤」  

  • 安倍首相は、「一億総活躍社会」の実現に向けた取組みとして、働き方改革を提唱しています。
    「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金(非正規雇用の処遇改善)」の外に、「労働生産性向上」も働き方改革の大きなテーマです。ここでは、生産性向上にもつながるとして注目されている「時差出勤」について考えてみます。

時差出勤とは  

  • 時差出勤とは、事業所の全部又は一部の従業員が始業時刻又は終業時刻をずらして勤務する制度をいいます。
    すなわち、1日の所定労働時間は変えず始業・終業時刻のみをずらすパターンを複数作り、固定若しくは交代で当てはめる形態がよく採用されています。最近では、ワークライフバランスの推進や通勤ラッシュの回避などの目的で、パターンの選択を社員に任せる企業も増えています。
  • 時差出勤は、海外とやり取りする職種や、窓口や店舗の営業時間が長い業種において、以前より導入されていましたが、東京都が通勤電車の混雑緩和のため「時差ビズ」キャンペーンに力を入れたこともあり、注目を集めています。
    地方の行政機関でも、自動車通勤による渋滞緩和や夜間対応のため、時差出勤の取組みが行われています。

導入のメリットとデメリット  

  • 一番分かりやすい効果的なメリットは、通勤時のストレス緩和です。他にも「育児・介護などとの両立」「私生活の充実」「時間外勤務の削減」「業務効率・生産性の向上」などのメリットがあります。
  • 反面、会社や業務によっては「勤怠管理が煩雑になる」「全員揃っての朝礼ができない」「取引先との連絡などに不都合が生じる」などのデメリットが指摘されています。

社内体制の整備  

検討事項  

目的

  • まず、検討すべきことは、時差出勤を何のために導入するのか、何を目指すのかを明確にする必要があります。単に「通勤のストレスを緩和するため」でもよいのですが、「業務の効率化」などを目的とする点も踏まえるならば、従業員も意識をもって取り組んだほうが効果が上がります。
  • また、業務上の都合から時差出勤の対象にならない従業員がいる場合や、取引先の理解を得る必要がある場合は、説得力のある目的があるとスムーズに導入できます。

制度

  • どのような制度にするかの検討も大事です。例えば、次のような検討事項が考えられます。
  • 始業時刻の幅(1〜2時間程度か、午後出勤も可能とするか等)
  • 勤務パターンの数
  • 勤務パターンの選択方法(従業員が自由に選択できるようにするか、所属長が決定するのか)
  • シフトの決定時期・期間(何日前までに決定するか、1か月単位とするか等)
  • シフトの決定(変更)及び手続方法
  • シフトの周知方法  等々
  • まずは、始業時刻の幅と勤務パターンを検討します。これまで固定的な勤務時間しか設けていなかった場合は、初めから多くの勤務パターンを作っても運用が難しく、混乱が起こる可能性があります。
    最初は、現在の始業・終業時刻に対して、前後1〜2時間くらいの幅から始めるのがよいかもしれません。この程度の範囲であれば、「取引先や他部署との連絡が取りにくい」「会議の時間が取れない」
    といったデメリットは感じにくくなるでしょう。
  • 業務の都合などから、これまでも事実上の時差出勤があったような場合は、それに対応できる勤務パターンを複数案作成して運用すれば、残業時間の削減にも繋がる可能性があります。
    また、運用ルールを作ることで、これまで生じていたデメリットを減らす方法も検討できます。
  • 勤務パターンの選択方法(勤務パターンを従業員が自由に選択できるようにするか、所属長が決定するか)は、導入の目的によっても変わります。この場合、業務の都合であれば、所属長が決定するか、従業員の申告を所属長が承認することが多いでしょう。
  • 一方、ワークライフバランスや通勤時のストレス緩和が目的であれば、従業員がある程度自由に選択できるようにすることになると思います。
    ただし、従業員が自由に選択できるといっても、"出社するまで分からない"となると業務に支障をきたすことにもなり、事前にルールを決めておく必要があります。そのためには、シフトの決定時期・期間を検討します。具体的には、時差出勤を適用する日をいつまでに決定するのか、1日単位なのか、1週間又は1か月単位で決めるのか、等です。
  • 業務の都合で所属長が決めるのであれば、一般的には1週間単位又は1か月単位でシフトを作成しますが、従業員が個人の希望で決められるケースでは判断が分かれると思います。
    フレキシブルにしたほうが従業員本人には使いやすいかもしれませんが、あまりフレキシブル過ぎると業務に支障が出ることも考えられるとともに、勤怠管理も煩雑になる可能性があります。
  • 単に通勤ラッシュを避けるために個人的に早く出勤した、又は私用で遅刻した、というような状態と区別し、時差出勤制度として運用するのであれば、1週間又は1か月単位などで事前に決定し、期日までに書面で届出を行うルールと周知方法を決めておくことが考えられます。その場合でも、特に、他社や他部署との連携が必要な業務の場合は、しっかりと検討する必要があります。

対象者

  • 全社員を対象とするのか、又は部署ごと・職種ごとのように対象者(対象部署)を限定するのかを検討します。先に対象外としなければならない業務の有無を検討したほうがスムーズに移行できるかもしれません。
    例えば、来客や電話の応対が頻繁に発生する部署、取引先に行く時間帯が業務の都合で決まっている部署、若しくは特定の時間帯に業務が集中する部署などでは、全員が広い範囲の時間帯から自由に選択する方式は難しいと言えます。
  • この場合、業務が集中する時間帯には多くの従業員がいるように勤務パターンを作成し、可能な範囲で始業時刻を前後にずらすことにより残業時間の削減に繋がる可能性があります。
    例えば、営業職が
    帰社した夕方から業務が忙しくなる営業事務職の従業員が朝から出勤していると、全員が残業することになりますが、時差出勤制度を導入し、朝の電話対応を交代制にすれば、通勤ラッシュの負担も軽減でき、残業時間も大幅に削減できる等の効果が期待できます。
  • なお、特に時差の幅が大きい場合、管理職が遅い時間に出社すると、決済を仰ぐまでに時間がかかり業務が遅れるというデメリットも考えられます。この場合、管理職は時差出勤の対象外にするか、又
    は選択できる時差の幅を狭めるか、若しくは決裁権者や決済の方法を変える等、検討する必要があります。

勤怠管理

  • 時差出勤制度を導入すると、始業・終業時刻が1種類しかない場合と比べて、「0時以降は残業」などと一括りにはできなくなります。勤務時間を計算するのに、多くの場合、タイムカードか専用システム等を使用していると思いますので、現在のシステムが制度に対応できるかの確認も必要です。
  • 例えば、全ての勤務パターンをあらかじめ登録し、各日の勤務パターンを設定しておけば、自動的に残業計算ができる機能はよく見られます。
    反面、設定の作業が煩雑で、正しく設定できないと正確な勤務時間が計算できないこととなるため、注意が必要です。また、独自に設定した勤怠管理システムを使用している場合などは、変更に時間と費用がかかる可能性があります。
  • また、午後10時から午前5時の深夜時間帯は、一般的な(通常の)出勤時間の場合は、すでに所定労働時間外になっているため、深夜の割増賃金は時間外割増賃金の125%に25%を加えた150%で計算していることがほとんどですが、
    もし、例えば始業時刻が午後2時という勤務パターンがあると、所定労働時間が8時間(休憩1時間)の場合、終業時刻は午後11時となり、所定労働時間の中に深夜時間が含まれていることになります。これは、深夜営業の窓口や来客・電話応対、保守など、業務が限られますが、これから導入するに際しては、深夜割増賃金の未払いが発生しないように注意が必要です。

予測される問題への対応

  • 最初からデメリットばかり気にしていては時差出勤の制度は導入しにくくなりがちですが、予測される問題点については対応策を検討しておく必要があります。
  • 例えば、始業時刻に大幅なずれが生じる勤務パターンがあると、
    • 部署内、他部署、他社とのコミュニケーションが不足する。
    • 不在時の対応が困難となる。
    • 会議の時間が取りにくい。
    • 早朝や深夜の時間帯のセキュリティや空調管理が難しくなる。
    • 管理職の決済をもらうまでに時間がかかる、等の問題が起こることがあります。
  • また、始業時刻のずれの幅が大きいと生活リズムが狂いやすく、体調や業務効率にも影響が出ることも考えられます。会社の事情によりさまざまな違いがあるため一概には言えませんが、起こり得る問題をある程度は想定して、事前に対応策を決める必要があります。

導入  

テスト運用

  • 本格的に導入する前に、対象者や期間を区切ってテスト運用をしたほうが良い。テスト運用後には、対象となった社員や関連部署の社員などにアンケートやヒアリングを行って、状況等を確認します。対象社員等が実感したメリット・デメリットを聞いておくと、改善や次の展開に繋げられます。

改善

  • 改善すべき点があれば再度検討し、場合によっては改めてテスト運用をすることになります。

本格導入

  • テスト運用で問題がなければ、いよいよ本格導入となりますが、事前に、社員に対し十分に説明し理解してもらう必要があります。可能であれば、全体説明会を実施し、質疑応答を行うとともに、事後にも質問等を受け付ける期間を設けると良いと思います。

規定の変更  

  • 始業及び終業の時刻は、就業規則の絶対的必要記載事項であるため、時差出勤を制度として取り入れて始業・終業時刻を設ける場合には、就業規則も変更しなければなりません。
  • また、一斉休憩が適用されている事業所(下記の※以外の業種)で、時差出勤の結果、一斉休憩ができなくなる場合は、一斉休憩の適用除外に関する労使協定も作成する必要があります。なお、この場合の労使協定は、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

規定例:本人の希望で選択できる場合

第0条 始業時刻及び終業時刻は次の通りとする。

始業時刻 午前9時00分

終業時刻 午後6時00分

第0条 時差出勤を希望する従業員は、希望する日の0日前までに所定の書面により所属長に届け出て承認を得ることによって、次の中から始業及び終業時刻を選択することができる。

〇篭隼刻 午前7時00分
終業時刻 午後4時00分

∋篭隼刻 午前8時00分
終業時刻 午後5時00分

始業時刻 午前10時00分
終業時刻 午後7時00分

一斉休憩の適用除外に関する労使協定で定める事項

  1. 一斉に休憩を与えない労働者の範囲
  2. 一斉に休憩を与えない労働者に対する休憩の与え方

※ 一斉休憩の適用除外となる業種
運輸交通業,商業,金融・広告業,映画・演劇業,通信業,保健衛生業,接客娯楽業,官公署

運用のポイントと留意点  

最初は短時間の時差から始めると良い  

  • 海外との仕事上の連携や来客応対など、業務上の必要性から出勤時間が午後になる場合等は別として、まずは現行の始業時刻から前後1〜2時間程度の範囲内で収め、スタートしたほうが運用しやすいことと思います。また、この範囲であれば、デメリットも起こりにくくなります。

不公平感を生まないようにする  

  • 通勤時の混雑によるストレス緩和やワークライフバランスを目的とする場合は、全社一斉又は部署一斉に導入したほうが、不公平感が生じにくいと言えます。
    もちろん、この場合でも来客や電話応対などのために、会社の始業時刻に誰もいないという状態は避けなければなりません。
  • 例えば、会社の始業時刻直後が一番忙しい等、時間帯によって業務の繁閑がある場合などは、一部の従業員に業務が集中しないように配慮する必要があります。特に、勤務パターンを自分で選択できる方法
    を執るときは、不公平にならないようなルールを決めておくべきでしょう。

早出の従業員が帰りやすい雰囲気をつくる  

  • 時差出勤のデメリットの1つに、早出の従業員が帰りにくいという点が挙げられます。例えば、午前7時に始業した従業員の終業時刻が午後4時であったとすると、まだ周囲の従業員が就業時間内で仕事をしている中で、終業時刻だからと自分だけ帰るのは心苦しく感じ、ついつい居残ってしまうということが起こり得ます。
  • こうなると業務の効率化どころか、かえって残業時間が増える可能性もあります。
    また、早い時間に帰ることに、他部署や顧客も含めた周囲の理解が得られない場合もあります。さらに、時差出勤制度を利用して育児と仕事を両立しようとする従業員に対して、周囲が無理解な言葉をかけるようでは、ハラスメントにもなりかねません。
  • このような事態を避けるためには、会社全体で取り組むこと、特に経営者や上司の理解と支援が大切です。従業員には終業時刻を意識して効率よく業務ができるよう努力してもらうとともに、終業時刻には
    上司や周囲の従業員が声を掛けて帰りやすい雰囲気をつくるなど、互いに配慮し合うと気持ちよく運用することができます。

不在時に周囲に迷惑をかけないようにする  

  • 時差出勤の“時差”が大きいほど、会社の本来の営業時間内に不在になる時間が増える場合があります。
    例えば、不在の従業員宛に問い合わせがあり、すぐに返答が必要だが本人以外は誰も分からないような状態になっていては顧客に迷惑がかかり、かつ対応する上司や同僚にも負担になります。
    また、他部署との連携が必要な業務の場合、出勤時刻の違いから連絡が遅くなり、業務に支障が出るようでは制度の意味がありません。
  • このような場合の対応としては、業種や職種によって違いがあると思いますが、いずれにしても、情報の共有化及び情報伝達のタイミングが重要となります。できれば、仕事を従業員の専属とせず、つまり
    属人化せず、マニュアルを作成したり又は情報の共有により、ある程度誰にでも分かるようにしておくと、不在時の対応だけでなく業務全般の効率化にも繋がります。
  • 在籍年数が長いほど、若しくは専門的な業務ほど、どうしても仕事が属人化する傾向があります。この機会に業務のマニュアル化、職務分担の見直し又は情報共有のルール化等をして、業務効率の向上を目
    指すのも良い機会となるでしょう。

管理職の協力を得ること  

  • 時差出勤制度を定着させ業務の効率化を図るためには、その前提として現場の理解が大切です。特に、現場を監督する管理職の協力が得られないと、デメリットが目立って効果が上がらず頓挫する可能性も
    あります。
  • 前述した通り、時差出勤制度は勤怠管理が煩雑になるとともに、不在時の対応などで周囲の負担が増えるリスクもあるため、管理職が積極的に動いてくれないこともあります。
    したがって、ただ制度を導入するだけでなく、特に管理職には制度の目的や意義を理解してもらい、協力してもらえるような体制にすることも運用上、特に重要な点となります。 (了)

 

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